150年ブログ
2020.11.16
石屋製菓の若手社員による農業研修。
研修生たちは各々の職場へ戻り、何を考え、どう行動しているのか。
その後の姿を追った。
<製造部門編>
身を削って乳を生産している現場に直面
私が研修を行ったのは江別市の「株式会社Kalm角山」です。
アジア初の8台のロボット搾乳システムを導入したメガロボットファームです。
繋ぎ牛舎*1とフリーストール牛舎*2の2種類があり、そこで約500頭の乳牛が飼育されています。
研修を通して最も印象に残ったのは、牛が文字通り身を削って乳を生産しているということです。
牛の寿命は通常約20年。
それが、人為的に種付けを行い、搾乳を繰り返すことで5年ほどになります。
それ以上に寿命が短くなることもあります。
本来牛が乳を生産するのは子に飲ませて育てるためです。
搾乳の前後では、牛の心拍数は上昇します。
一度の搾乳で絞られる乳の約半分は、ホルモンの働きにより搾乳中に急速に体内で作られるそうです。そのため、搾乳直後の牛は一種の貧血状態になります。
乳は血液を原料に作られるからです。
私は今まで、乳牛に対し「命をいただいている」という感覚をあまり持てていませんでした。しかし、これらのお話を伺って考えが変わりました。
搾乳とは間違いなく、「牛の命であり体の一部を分けていただく」ということなのです。
実際に牛舎の中に入って、生きている命のあたたかさに触れ、その実感が一層強くなりました。
菓子製造という業種が、多くの牛たちの命をいただくことで成り立っているという事実を、改めて意識させられました。
*1繋ぎ牛舎 : 一頭分の区画内に牛を繋いで飼養する構造の牛舎
*2フリーストール牛舎 : 牛を繋がずに、自由に歩き回れるスペースを持った牛舎
原材料は“いのち”そのもの
これらの現実を現在の製造現場を振り返ってみたとき、私たちは “命”ともいえる原料を大切に扱えているのか疑問に思いました。
投入された原料の大半は製品となりますが、一部は製造ロスとして廃棄されてしまいます。
わずか数%のロスかもしれませんが、減らす取り組みが疎かになってはいけないと感じています。
Kalm角山においても、生乳の廃棄率は課題の一つになっていました。
研修時にスタッフの方から、「一頭あたりの搾乳量を増やしていくことも大切だが、“何らかの理由により搾乳できなかった、搾乳後廃棄せざるを得なかった乳”をいかに減らすかが非常に大切だ」というお話を伺いました。
乳の生産性を向上させるには、牛一頭当たりの搾乳量を増やすか廃棄量を減らすかの二つの方法が考えられます。
搾乳量を増やす場合、その分の栄養素としての飼料が必要になるうえ、牛にかかる負担も無視はできません。
対して廃棄している分を全て生産量に回すことができれば、コストをかけずに生産性を向上させることができます。
当社の製造現場においても同じことが言えます。
原材料を投入したうち、全体の10%がロスとして廃棄されると仮定すると、1,000kgの原料を投入したうち100kgが製造の過程で廃棄されることになります。
この10%分も製品化することができれば無駄なく製造数が増加したことになります。
Kalm角山には日別・月別の生乳生産量および搾乳頭数、廃棄率が掲示されています。
日ごとの推移を可視化することで従業員への意識づけを行う目的のほか、今後年単位でデータを集めて、廃棄率の低下に関わる要因を分析していく、とのことでした。
グラフで推移を追うだけでなく、廃棄量が多かった月は、季節や気温はどうだったのか、また改善措置を取った日以降廃棄率はどのように変化していくのか、などといったデータを組み合わせて生産性向上のための要因を探っていく、ということです。
廃棄率の考えを応用し、ロス削減ができないか。
この取り組みを自社においても取り入れられないかと考えています。
私は、Kalm角山の事例を参考にして社内でも一部の商品の出来高率およびロス率推移のグラフの掲載を始めました。
掲示の目的はロス率低減に対する意識づけですが、データを用いたロス対策も同様に行っていこうと考えています。
当社ではデータの蓄積は十分になされているので、これらをどう使っていくかが今後の課題になります。
(写真)キャプション:工場内のデジタルサネージ表示されたグラフ。
「いのちを頂く」ことから変わった意識
乳をはじめとする原料には、必ず生産される場があり、携わる人たちがいるということを意識するだけでも、ロスに対する意識は変わってくるのではないかと思います。
コスト削減への貢献といった意味でも、ロスの削減は大きな意味を持っています。
営業・販売部門のように実際に製品の販売を行うことがない製造部において、直接収益に反映させることができる一つの方法がロスの削減です。
製造部として、もっと本腰を入れたロス率の削減に取り組んでいきたいと考えています。
私は研修を通じて、「命をいただく」という実感、ロスに対する意識が変わりました。
この度は非常に貴重な経験をさせていただき、誠にありがとうございました。
この場を借りて、関係者の皆様に心より感謝申し上げます。
<編集後記>
どんなに効率的に製造したとしても100の原材料に対して100を製品にするのは不可能である。
100(原材料)≒100(製品)にはならない。
高品質を目指すほど適合基準は厳しくせざるを得ない。
食品会社として品質を最重要視するのは当たり前。
しかし、これからのISHIYAが目指していくことは、最高品質の製品をいかに無駄なく製造するかという究極への挑戦ではないか。
上澄みだけをすくい最高品質にすることは誰にでもできる。
いのちをけずって供給された原材料を極限まで使い切り最高品質の菓子を作る。
これを達成してこそ“ISHIYAの菓子づくり”と言えよう。
石屋製菓 広報課 亀村建臣